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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)1192号 判決 1967年3月24日

上告人(被告・被控訴人) 市橋文雄

右訴訟代理人弁護士 村部芳太郎

被上告人(原告・控訴人) 中村清也

右訴訟代理人弁護士 小谷勝市

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄し、本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人村部芳太郎の上告理由第一点および第二点について

原判決の確定した事実によれば、判示(ト)手形は、被控訴人(上告人)が控訴人(被上告人)に対し有する本件貸金債権につきその支払いのため振出された判示(イ)手形の書換手形であるところ、訴外渡辺健治は、被控訴人のために保管していた右(ト)手形を取立てに廻した後、右手形の振出人である訴外菱中産業株式会社の常務取締役であって、本件貸金債権の債務者である控訴人より依頼を受け、右手形の不渡処分を免れさせるために右渡辺の資金を右訴外会社の当座預金口座に振り込み、よって右手形の決済をした。その後、右渡辺は、被控訴人の代理人として、控訴人より控訴人振出名義の額面一〇〇万円の約束手形の振出交付を受けたが、これは被控訴人の控訴人に対する本件貸付金のうち元金一〇〇万円の支払方法として振出を受けたものである、というのである。

原判決は、以上の事実関係の下においても、貸金債務の支払いのために振り出された手形の支払いがなされたものである以上、当然に当該貸金債務の弁済となると判示する。しかしながら、貸金債務の支払いのため振り出された手形ではあっても、その後の事情の変更により、当該貸金債務の弁済の趣旨ではなく、当該手形の不渡を免れしめるために、第三者の資金によって、その手形の決済がなされたときにまで貸金債務弁済の効果が生ずると解すべきではない。前記のように訴外渡辺は、本件貸金の債権者である被控訴人のために判示(ト)手形を所持していたというのであるから、前記渡辺の行為が本件貸金債務の第三者弁済をする趣旨であったとは軽々に断定することができない。原判決の確定した事実関係の下においては、原審は、すべからく訴外渡辺が本件貸金債務の第三者弁済をする趣旨で本件手形金の支払いをした特段の事情を説示しなければならないのにかかわらず、訴外渡辺が本件手形の支払いをなしたとの一事をもって直ちに本件貸金債務の第三者弁済であると断定したのは、理由不備の違法があるといわなければならない。<以下省略>

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

上告代理人村部芳太郎の上告理由<省略>

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